与信コラム

貸倒損失とは? 企業が知るべきリスクと与信管理の重要性

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はじめに

企業では、取引先の倒産などで売掛金や受取手形および貸付金などの債権が回収不能になる「貸倒損失」が発生すると、キャッシュフローや経営判断に大きな影響が及びます。


日本国内では、年間およそ10,000件前後の倒産が発生しています。こうしたリスクに正面から向き合い、大切な資金を守りつつ、安定した経営を続けるためには与信管理への取り組みが欠かせません。


本コラムでは、貸倒損失についてわかりやすく解説し、リスクを抑制するための与信管理の重要性や取引先の信用力をしっかりと見極める具体的な方法をご紹介します。


貸倒損失の基本

貸倒損失の基本

企業が負う貸倒リスクとは、売上を計上した後も実際の入金が得られず、最終的に損失が確定してしまうことを指します。特に取引先の数が限られており、1社あたりの依存度が高い場合、一度の貸倒が経営全体に深刻なダメージを与えるおそれがあります。


まずは、貸倒損失がどのようなものなのか、また企業経営にどのような影響を与えるのかを見ていきましょう。


貸倒損失とは?

貸倒損失とは、本来回収できるはずの売掛金や受取手形および貸付金などの債権が、取引先の経営悪化や倒産などによって回収不能となり、企業の損失として確定することです。特に取引先との結びつきが強い中小企業では、このような回収不能の影響がより大きく表れます。


また、こうした損失の計上によって企業の財務状況が悪化すると、金融機関などからの融資の条件が厳しくなるなど、新たなリスクに直面する可能性もあります。


取引先の資金繰りや経営状態の悪化は、徐々に兆候として現れることが多く、この兆候を見逃すと、最終的に大きな損失へとつながります。貸倒損失は、この「回収不能のリスク管理」を考えるうえで、避けては通れない重要なキーワードといえるでしょう。


貸倒損失が企業経営に及ぼす影響

貸倒損失が確定すると、キャッシュフローに深刻な影響を及ぼします。入金が途絶えるため、他の支払いに充当する資金が不足してしまい、結果として社員の給与や設備投資に影響が及ぶこともあります。


また、貸倒損失が増えると財務体質の悪化によって金融機関などからの追加融資を受けにくくなります。その結果、新規事業や大きな商談にも慎重にならざるを得なくなるなど、企業の成長サイクルが停滞するリスクもあります。


こうした連鎖を防ぐためには、貸し倒れリスクを低減する仕組みづくりが欠かせません。


貸倒損失の損金計上における3つの要件

損金計上における3つの要件

「貸倒損失の損金計上」とは、企業が保有する売掛金や受取手形、および貸付金などの債権が回収不能となった場合に、一定の要件を満たすことで損金(費用)として計上できる制度です。
法人税上、以下の3つのいずれかに該当する場合に認められます。


  • 法律上の貸倒
  • 事実上の貸倒
  • 形式上の貸倒

それでは、それぞれの貸倒について詳しく見ていきましょう。


法律上の貸倒

「法律上の貸倒」とは、法的な手続きや正式な協議などによって、債権の全部または一部が切り捨てられた場合を指します。これは、法律に基づいて債権が消滅または放棄されたことが明確であるため、その年度の損金として計上することが認められます。


主なケースとしては、以下のような場合が挙げられます。


  • 会社更生法や民事再生法に基づき、裁判所によって更生計画や再生計画が認可された債権
  • 会社法による特別決算手続きで協定が認可された債権
  • 債権者集会での協議、金融機関や行政機関の斡旋によって債権整理が合意に至った場合
  • 債権超過の状態が数年にわたり継続し、かつ書面により明確に債務免除額を通知した場合

ただし、書面による債務免除については、合理的な根拠および債務超過の継続といった条件を満たす必要があり、その場合、免除した債権額のみが貸倒損失として認められます。


事実上の貸倒

「事実上の貸倒」とは、債務者の経済的な状況などから見て、債権の全額が実質的に回収不能であることが明確な場合を指します。この場合は、法律上の手続きよりも、債権の実態に基づく回収可能性が重視されます。


例えば、次のような条件をすべて満たしている場合が、「事実上の貸倒」に該当します。


  • 債務者が倒産、夜逃げ、死亡、行方不明などにより、連絡や回収が困難であること
  • 担保物の処分を適切に実施し、それでも弁済が不可能であること
  • 保証人からの回収努力も尽くし、そのうえで回収見込みがないと判断されること

上記のように、債権の実質的な回収可能性が完全に失われている場合には、その債権を損金算入することができます。ただし、債権の一部でも回収可能な見込がある場合には、貸倒損失として認められません。


また、税務署に対しては、債権者の財産状況や回収不能と判断した根拠となる資料の提示が求められるため、十分な記録や書類の整備が重要です。


形式上の貸倒

「形式上の貸倒」とは、一定期間取引が停止され、かつ弁済がない場合に、形式的な基準に基づいて損金として認められるものを指します。これは実質的に回収不能とまではいえないものの、回収の見込みが乏しい場合に備えた規定となります。


典型的な例としては、継続的な取引をしていた相手先に対して、取引を停止してから1年以上経過し、かつ何の弁済も行われていない場合です。このとき、当該の売掛債権について備忘価格(通常1円)を残して、残額を損金計上することができます。


この「形式上の貸倒」が適用されるのは、基本的に「売掛債権」に限られており、貸付金や未回収金といった他の金銭債権には適用されません。また、取引が一時的なものである場合(例:不動産売買など)も対象外となります。


貸倒損失発生の原因と注意点

貸倒損失発生の原因と注意点

貸倒損失は、取引先の経営不振や景気変動など、多様な要因によって発生します。リスクを最小化するためには、「なぜ貸倒が起きるのか」をしっかりと理解し、わずかな異変を早期に発見する体制が欠かせません。


ここでは、貸倒が起こりやすい原因と見落としがちなサインを確認していきましょう。


貸倒損失の主な原因と発生パターン

貸倒損失発生の主な原因と発生パターンには、以下のようなものが挙げられます。


● 倒産や経営破綻

取引先の資金繰りが悪化し、支払い遅延(未入金の状態)が継続した結果、突如として取引先の「支払い不能」という事態に陥ることがあります。


● 一時的な資金繰りの悪化

倒産には至らなくとも、支払い遅延(未入金の状態)が長期化することで、結果として自社のキャッシュフローに深刻な影響を与えることがあります。


● 長期化する取引上のトラブル

取引先が抱える内外の問題が長期間解決されない場合、その結果、取引先の財務状態が悪化し、支払い能力が低下することが考えられます。このような場合、債権の回収がますます困難となり、最終的に貸倒損失に至ることがあります。


貸倒損失が発生する背景には、こうした様々なパターンが存在します。いずれも突然表面化するケースが多く、事前の見極めが困難です。


だからこそ、取引先の経営能力や内部管理体制を見極めると同時に、自社がどこまでのリスクを許容できるかを見定める視点が欠かせません。


貸倒損失発生前の見落としがちなサイン

貸倒損失が発生する前兆として、見落としがちなサインは、以下の通りです。


● 支払い期日の遅れが習慣化

明確な理由も示されず、対応に一貫性がなく連絡も不安定な場合は、早めに社内で状況を共有し、対処法を検討しましょう。


● 決算が大幅赤字となる、または代表者、経理担当役員や担当者の交代が頻発している

こうした財務状況や組織変更の情報を得た場合は、一度立ち止まって相手先の経営状態を見直して、今後の取引方針を慎重に判断することが重要です。


加えて、社内で情報共有を徹底し、追加調査や交渉のタイミングを逃さないようにすることで、大きな損失を未然に防げる可能性が高まります。


貸倒損失の財務・会計上の基礎知識

貸倒損失の財務・会計上の基礎知識

貸倒損失の計上は、法律や会計基準に則して処理する必要があります。経理担当者にとっては基本的な作業に思われますが、要件やタイミングを誤ると財務上の指摘を受けるリスクがあるため、十分な注意が必要です。


法的根拠と計上ルール

法人税法企業会計基準の規定により、貸倒損失は、「回収不能が明らかになった場合」には損金として扱われます。ただし、法人税法上は「形式的貸倒れ」「実質的貸倒れ」「一部貸倒れ」など複数の区分が定められ、それぞれの要件は細かく決められています。


例えば、債務者が破産手続きに入るなど正式に倒産が確定した際には「形式的貸倒れ」として認められやすい一方で、破産手続き前でも回収不能が客観的に判断できる場合は「実質的貸倒れ」として扱われることがあります。


また、取引先が債務超過でも、すぐに貸倒損失を計上できるわけではなく、確認可能な証拠、例えば破産申立書や清算手続きの資料が必要です。これは企業が不当に貸倒損失を計上しないように、客観的で明確な証拠を求めているためです。


貸倒損失の具体的な処理フロー

貸倒損失の計上においては、以下のようなフローをたどります。


◇ STEP1:回収活動の履歴を明確化(督促記録)

督促状の送付や支払い交渉などを記録し、「一定期間努力したが回収不能だった」という証拠を示せるようにします。


◇ STEP2:破産手続き開始や弁護士の判断(破産手続開始通知書)

破産手続き前でも、実質的に回収が不可能と判断される場合は「実質的貸倒れ」として認められることがあります。


◇ STEP3:仕訳と損益計算書への反映

当該の売掛金を貸倒損失として計上し、税務署への説明に備えて書類を保管しておきます。


また、貸倒損失と貸倒引当金の区別も重要です。貸倒引当金は見積ベースであり、回収不能が確定したわけではない点を押さえておきましょう。


貸倒損失が税務上認められるかどうかは、事例ごとに大きく異なります。取引金額や業種、破産手続きの進捗状況などにより、損金処理の時期も変わるため、疑問点がある場合は税理士や会計士に事前に相談すると安全に手続きを進めることができます。


貸倒損失を防ぐためのポイント

貸倒損失を防ぐためのポイント

貸倒リスクをゼロにすることは難しいものの、いくつかのアプローチを重ねることでリスクを最小限に抑えられます。


ここでは、以下のアプローチを例に紹介します。


  • モニタリング体制の強化
  • 与信管理を行う

モニタリング体制の強化

取引先へのモニタリング体制を強化することで、定期的に財務状況や財務指標、支払い状況を適切に評価できます。また、支払い遅延や取引条件の変更が生じた際にアラートを出す仕組みを設定することも効果的です。


例えば、信用情報サービスや独自の信用スコアリングシステムを利用して、取引先の信用力を継続的に監視することで、効果が期待できます。


自社の財務状況や事業計画を踏まえ、どの程度の貸倒リスクを許容するか、予め明確に定めておくことが重要です。また、新規取引先など信用力が不透明な場合には、まずは少額取引にとどめておくのが望ましいでしょう。


そのほか、前払いの条件を設けたり、短期での決済を求めたりすることで、リスクを効果的に分散することが可能です。


与信管理を行う

貸倒損失を少しでも抑えるには、取引先の財務状況や信用状況を継続的に監視し、リスクを事前に把握して、リスクが高まった段階で迅速に対応策を講じるための「与信管理」が重要です。


「与信管理」とは、取引先の財務状況・経営実態・支払い能力などを総合的に評価し、貸倒リスクをコントロールする一連の取り組みを指します。与信管理は、新規取引・継続取引のいずれにおいても有効です。


新規取引では、信用情報をもとに慎重に審査し取引可否や取引条件を決定します。継続的な取引先に対しては、信用度の変化に加え、支払い遅延や経営環境の変化をモニタリングし、状況に応じて取引条件や支払い条件の見直しを行うことで、回収不能リスクを抑える体制を構築していきます。



与信管理システムの導入事例

建築資材卸売業のB社様(以下、B社様)は、もともと調査会社の情報のみで取引先の管理を行っていましたが、それでも年間20~30件の不良債権が発生していました。こうした状況を受けて、新たな評価指標の導入が求められていました。


与信管理システムの導入にあたり、B社様では取引先の格付け内容を比較・検討。その中で、AGSの「ニューロウォッチャー」は調査会社とは異なる観点から格付情報を提供しており、新たな評価軸として活用できると判断されました。


システム導入後は、調査会社の情報とニューロウォッチャーの格付を併用する運用体制を構築。取引先の信用格付けに基づいて与信限度額を設定し、客観的な判断と定期的なモニタリングにより与信管理を強化しました。


その結果、貸倒リスクを総売上の8%から3%へと大幅に削減することに成功。営業現場にも与信意識が浸透し、リスクを抑えた安定的な取引基盤の整備が着実に進んでいます。



まとめ|貸倒損失を防ぐには早期からの対策が重要

まとめ_貸倒損失

以上の内容を踏まえ、自社の課題に合った与信管理の方法を模索してみましょう。貸倒リスクを正しく捉え、必要な対策を早めに打つことが、経営の健全性を確保するための重要な基盤となります。


貸倒損失を計上する際には、税務上の厳密な要件を満たす必要があります。「回収不能」と判断されるためには明確な証拠が求められます。例えば、破産手続きの通知や繰り返される督促記録はその証拠として有用です。


このような点に迷う場合には、税理士や会計士などの専門家に事前に相談することをお勧めします。専門家のアドバイスを受けることで、適切な手続きを踏むことが可能になります。


AGSの与信管理システム「ニューロウォッチャー」では、信用格付情報のご提供のほかにも、情報の変化をモニタリング「継続管理」機能も備えております。取引先の信用度や企業情報・財務情報の変化を早期に発見し、迅速に対処することが可能です。ご興味がある方は、ぜひ一度お問い合わせください。


自社の与信管理を強化して、見落としがちな取引先の情報に敏感に反応し、貸倒損失のリスクを未然に防ぎましょう。


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