与信限度額の設定方法をわかりやすく解説:超過した場合の対処法も紹介

はじめに
与信管理において、与信限度額の設定は重要な管理項目です。与信限度額を設定することにより、過剰取引リスクの抑制を図り、不良債権発生を防ぐ効果があります。
本記事では、与信限度額の基本概念から具体的な設定方法までをわかりやすく解説します。また、取引先との関係が変化して売掛債権額や商談中の金額が与信限度額を超過した場合の適切な対処法についても触れていますので、取引の安全性を高める参考にしてください。
与信限度額とは? わかりやすく解説
与信限度額とは、企業が取引先に対して設定する「信用取引の上限額」を指します。上限額は、取引先が将来支払う予定額(売掛金)を制限し、債務不履行、回収不能のリスクを最小限に抑えるために設定します。
与信限度額には、以下の3つの主な目的があります。
主な目的
回収リスクの軽減 | 取引金額の上限を設定し、回収リスクを最小限に抑制 |
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資金繰りの安定化 | 未回収や不良債権リスクを回避し、自社のキャッシュフローを安定化 |
透明性の向上 | 明確な全社基準を設け、過剰取引の防止と取引継続判断の統一 |
与信限度額を設定すれば、取引リスクの基準を見極めた客観的な経営判断ができるようになります。
与信限度額設定の進め方
与信限度額を設定するための基本ステップは、以下の通りです。
- STEP1:自社能力の算定
- STEP2:取引先能力の算定
- STEP3:与信限度額の試算
- STEP4:与信限度額の調整
- STEP5:超過時のマニュアル作成
上記のステップを段階的に進めれば、取引リスクを最小限に抑えながら柔軟かつ効率的な与信管理が実現できます。
与信限度額設定の各ステップの詳細は、以下のコラム記事を参考にしてみてください。
与信限度額の具体的な設定方法
与信限度額の設定方法には、代表的な6つのアプローチがあります。
- 自社の純資産
- 自社の売掛債権
- 取引先の純資産
- 取引先の仕入債務
- 取引先の月間売上高
- 取引先と同業企業との比較結果
以下では、それぞれの要素と具体的な計算方法について解説します。
1. 自社の純資産を基にした設定方法
自社の純資産を基準に与信限度額を設定する方法は、自社の財務状況に基づき、リスクを合理的に管理するための手法です。
取引先の信用力を数値化した「格付ウェイト」を計算式に用いて、精度の高い与信限度額を算出します。信用格付が高い取引先には、ウェイトを高く、低い場合には低く設定する必要があります。
計算式 | 純資産 × 一定割合 × 格付ウェイト (一般的に純資産10%がリスク許容範囲とされています) |
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メリット | ・自社の財務状況に基づく合理的な限度額設定が可能 ・自社が抱えるリスクを数値化により客観的に認識できる |
デメリット | ・純資産が少ない場合、大口取引のチャンスを逃す可能性がある ・リスク許容率の設定基準を超過した商談を推進するのか判断が難しい |
自社の純資産を基準とした方法は、財務的な健全性を直接反映する点で効果的です。また、ほかの指標(例えば総資産)と組み合わせて使用すれば、より精度の高い与信管理が可能です。
2. 自社の売掛債権を基にした設定方法
自社の売掛債権を基準に与信限度額を設定する方法は、取引実績データを活用するため、現実的で実務的な設定が可能です。
計算式 | 売掛債権額 × 一定割合 × 格付ウェイト |
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メリット | ・売掛金の回収可能性を基にしており、実務的かつ現実的な設定が可能 ・回収率や回収期間のデータなどからも算出できる |
デメリット | ・過去取引実績で売掛債権が大きい事例があると与信限度額が膨大になりがちで、現状の資金繰り(キャッシュフロー)と乖離するリスクがある ・過去データに依存するため、新規取引先や変動の激しい業界には向かない |
売掛債権を基にした与信管理では、入金されるまでには1〜2ヶ月のタイムラグが発生します。この方法は短期的なリスク管理に役立ちますが、1年以上の長期債権管理や業界特有の事情を持つ取引に対しては注意が必要です。
3. 取引先の純資産を基にした設定方法
取引先の純資産を基準に与信限度額を設定する方法は、取引先の財務健全性を評価した上で設定することから取引先支払能力を考慮した手法です。
計算式 | 取引先の純資産 × 一定割合 × 格付ウェイト |
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メリット | ・取引先の財務健全性を評価した上で与信限度額が設定できる ・純資産比率が高い取引先には、より高額な与信限度を設定しやすい |
デメリット | ・財務データを公開しない取引先企業の場合、与信限度設定が困難 ・純資産が高くても資金繰りが悪い場合があり、大口商談や長期取引を検討する場合、与信限度額設定が難しい |
この手法を用いる場合でも、資金繰りや流動性といった他の財務項目も考慮して検討する必要があります。多面的に財務データを分析・リスクを評価し、与信管理の精度と信頼性を高める必要があります。
4. 取引先の仕入債務を基にした設定方法
取引先の仕入債務を基準に与信限度額を設定する方法は、短期的な支払い能力を評価する際に効果的です。
計算式 | 仕入債務 × 一定割合 × 格付ウェイト |
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メリット | ・仕入債務は取引先の短期的な支払い能力を評価するためのよい指標 ・取引先の財務負担の程度を直接把握可能 |
デメリット | ・取引先の負債について多面的に分析・評価しないと、正確性に欠ける場合がある |
仕入債務比率が高い取引先の割合が多い場合、相手の負債状況や資金繰りを見極め、相手の破綻リスクが自社の事業に大きな影響を与えない様、慎重な管理が求められます。
5. 取引先の月間売上高を基にした設定方法
取引先の月間売上高を基準に与信限度額を設定する方法は、わかりやすいアプローチです。この方法では、月間売上高の1割以下を基準として、取引リスクを管理します。
計算式 | 月間売上高 ×10%以下 |
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メリット | ・客観的な数値が容易に把握できる ・売上高は公表されている場合が多く、データが入手しやすい (財務情報非公開先でも企業情報に売上高が記載されている) |
デメリット | ・季節変動が大きい業界では不正確になる可能性がある ・業種によって取引先の売上や利益構造が季節によって大きく変化する場合があるので、過大評価のリスクを発生する場合がある |
売上高を基準に与信限度額を設定する場合は業種の特性や取引先ビジネスモデルによって大きく異なる場合があるため、取引内容の特性に応じて適切に調整する必要があります
6. 取引先と同業企業を比較した設定方法
取引先と同業他社を比較して与信限度額を設定する方法は、業界全体の基準を考慮した有効な手段です。同業他社と大きく異なる与信限度額を設定するリスクを防ぎつつ、取引先の業界景気動向や競争力、信頼性を把握することが可能です。
計算方法 | ・同業他社各社のスコア(格付)を調査し標準信用スコア(格付)を把握 ・取引先の財務指標(純資産、売上高など)等を同業他社と比較してリスク度合を把握する ・業界標準や与平均与信限度額を参考に、取引先のスコアや財務指標を参考に取引先の与信限度額を設定 |
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メリット | ・業界標準から大きく乖離した過剰な与信限度額の設定し、取引リスクを未然に防止することが出来る ・取引先が業界内でどの程度の競争力や信頼性を持つかが明確になり、取引を実施又は継続するか具体的に検討可能 |
デメリット | ・同業他社の具体的なデータを得るには、信用調査会社などの利用が必要 ・同業他社との比較に頼りすぎると、取引先の独自性を考慮しないリスクがある (同業種でも規模が違うため、取引先と同規模の企業と比較することが必要) |
取引先と同業企業との比較には、専用ツールを導入するのが特におすすめです。
AGS社が提供する「ニューロウォッチャー」は、取引先の信用格付や与信限度額の算出を効率的に行うツールです。取引先の信用力をスコアリングし、業界内の他社と比較すれば、取引先の位置づけを把握しやすくなります。また、取引先の規模・信用度(安全性)・親密度・回収サイトを参考に、信頼性の高い与信限度額を算出する機能も提供しております。
「ニューロウォッチャー」の特徴については、以下のページをご参照ください。

与信限度額を超過した場合の対処法
万が一、取引先との取引が与信限度額を超過する状況が発生した場合には、新たな取引を停止したり、事前に現金や保証金を要求する等の状況に応じた対処が必要です。
ここでは、以下のような代表的なケースとその対処方法を解説します。
- 取引先が好調で取引規模が拡大した場合
- 取引先の信用状態に懸念が発生した場合
- 与信限度額は定期的に見直すことが重要
各事例を参考に、与信限度額の運用方法を再チェックしてみましょう。
1. 取引先が好調で取引規模が拡大した場合
取引先の業績が好調で取引量が急増し、与信限度額を超過する場合があります。その際は、以下のポイントを確認してみてください。
与信の再審査 | 最新の企業情報や格付情報の入手、および過去の取引実績や支払履歴(支払遅延の有無)等を確認 |
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与信限度額の増加 | 問題がなければ、リスクを慎重に評価しながら与信限度額を引き上げる |
最新の財務情報を基に再度与信審査を実施し、限度額の見直しを検討しましょう。
2. 取引先の信用状態に懸念がある場合
信用状態が悪化している取引先との取引が、与信限度額を超過するリスクがある場合は、迅速かつ適切な対策を講じ、売掛債権を減らす方向で進める必要があります。
与信限度額の減少 | 取引先に発生したリスクを評価し、与信限度額を決める (状況によっては前払いを条件にする等、取引条件を厳しくする) |
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追加保証の要請 | 取引先に担保や第三者保証を求め安全性を高める |
状況に応じて定期的に取引先の信用情報を更新し、変化を早期に察知する対応が必要です。
3. 与信限度額は定期的に見直すことが重要
与信限度額は、取引先の信用状態や経営状況の変化に対応するため、定期的に見直すことが重要です。最低でも年1回、取引先の決算期を基準に情報を収集し、限度額を再設定しましょう。
例えば、3月決算の企業であれば、7月頃に情報収集を開始し、10月から11月にかけて新たな限度額を決定するのが一般的です。
また、重要な取引先や信用状態に懸念のある企業については、通常より頻度を上げ、半年や四半期ごとに見直す対応が求められます。これにより、リスクを早期に察知し、適切な対策が可能となります。
さらに、社内で見直しルールを明確にし、対応期限を定めることで、管理の効率化が図れます。定期的な見直しを行うことで、リスクを軽減しつつ、取引先との信頼関係を維持しましょう。
まとめ
適切な与信限度額の設定は、取引リスクを抑え、企業の健全な経営を支える重要なプロセスです。
取引先の信用力や取引履歴等の多角的なデータを基に厳格な設定を行うことが重要であり、限度額を超過した場合には迅速かつ適切な対応が求められます。
また、AGSの「ニューロウォッチャー」を活用すれば、スコアリング信用格付や与信限度額の算出が可能です。リスクを抑えつつ、効率的かつ精度の高い管理を実現できます。
与信管理は、企業がビジネスチャンスを活かしながら、リスクを最小限に抑えるための重要な取り組みです。本記事を参考に、管理体制の見直しと改善を進め、取引の安定と成長につなげてください。