海外と日本のコーポレートガバナンスの違いとは?
海外事業管理における重要性も紹介
はじめに
企業の持続的な成長には、経営の透明性や健全性を支える 「コーポレートガバナンス」 が欠かせません。日本でも近年、上場企業を中心に整備が進んでいますが、 実は海外と比べてその考え方や運用には違いがあります。
本コラムでは、コーポレートガバナンスの基本から、日本と海外の相違点、 さらに海外事業を展開する企業にとっての実務的なリスクと重要性について、 事例や背景も交えながら分かりやすく解説します。
コーポレートガバナンスとは
企業経営においてコーポレートガバナンスとは、経営陣による独断や不正を防ぎ、 持続的な成長と社会的信用を確保するための 「統治」の仕組み です。
具体的には、取締役会などの監督機関が経営の意思決定を監視・是正する体制を指し、 企業不祥事の防止や株主との対話、ステークホルダーへの説明責任を果たすうえで 重要な役割を果たします。 近年は、環境・社会・企業統治の観点から持続可能性を重視する「ESG経営」の浸透や、 上場基準の厳格化といった動きとともに、 コーポレートガバナンスへの注目が高まっています。
コーポレートガバナンスの目的
コーポレートガバナンスは、単なるルール整備ではなく、 企業の信頼性と価値を高めるための 「経営インフラ」 です。 企業が持続的に成長するためには、内部の監督体制だけでなく、 外部との信頼構築も含めた多角的な視点が求められます。
具体的には、以下の3つの目的があります。
| 目的 | 概要 |
|---|---|
| 企業経営の透明性確保 | 意思決定プロセスや財務状況を開示し、不正の抑止と利害関係者への説明責任を果たす。 |
| 企業価値の長期的な向上 | 短期的な利益に偏らず、リスク管理や持続可能な戦略によって中長期の成長を目指す。 |
| 株主やステークホルダーへの利益還元 | 株主だけでなく、従業員・取引先・地域社会など多様な関係者に配慮した公正な利益配分を行う。 |
この章では、それぞれの目的について詳しく解説し、 コーポレートガバナンスが現代企業に不可欠な要素である理由を紹介します。
企業経営の透明性確保
企業経営の透明性を高めることは、コーポレートガバナンスの 中核的な目的 の一つです。 取締役会や社外取締役の設置、内部統制の強化、情報開示の徹底などにより、 企業の意思決定や財務状況が社外から確認できる体制が整います。
またこうした仕組みは、不正会計や粉飾決算の抑止だけでなく、 投資家・取引先との信頼関係の構築にもつながります。 経営の「見える化」は、 あらゆる利害関係者に安心と納得をもたらす重要な要素 です。
企業価値の長期的な向上
コーポレートガバナンスの整備は、目先の業績向上ではなく、 長期的な成長と信頼の構築 を支えるものです。 適切な監督体制のもとで、リスクの管理や持続可能な戦略が推進されれば、 企業価値は安定して高まります。 金融機関や投資家も、ガバナンスのしっかりした企業を好み、 結果として資金調達や市場評価にも良い影響が生まれます。
さらに、内部不正や経営判断ミスによる大きな損失を未然に防げる点も、 企業価値の維持につながるポイントです。 短期利益にとらわれず、中長期視点での経営判断を可能にするのが、 コーポレートガバナンスの大きな強みです。
株主やステークホルダーへの利益還元
企業は株主だけでなく、取引先・従業員・地域社会といった多様なステークホルダーとの 関係性のうえに成り立っています。 コーポレートガバナンスの整備は、これらの利害関係者への誠実な説明責任と利益配分を実現し、 信頼関係の維持・強化につながります。
特にESG投資の拡大により、非財務的な価値への注目が高まるなか、 ガバナンスの充実は企業の社会的評価を押し上げる重要な要素です。 また、従業員の働きがいや地域貢献といった取り組みにもつながり、 結果として企業の持続可能性を高める好循環が生まれます。
例えば、経営の意思決定に透明性と説明責任を強化すれば、 会社の利益をどう分配しているかを明確に示すことができます。 その結果、利益の偏りを防ぎ、企業と社会との健全な関係を保つことにもつながるでしょう。
ガバナンスの充実化は、株主はもちろん、すべての関係者にとって納得性の高い経営が実現され、 企業の信頼と持続可能性を支える土台となります。
日本と海外のコーポレートガバナンスの違い
コーポレートガバナンスの考え方は、国や地域によって大きく異なります。 特に日本と海外では、制度の設計や経営に対する姿勢に明確な違いがみられます。
ここでは、以下の2つの観点から日本と海外のガバナンスの違いをみていきます。
- 法律によって定められているかどうか
- ステークホルダーに対する考え方の違い
それぞれの違いを理解し、グローバルな企業経営に必要な視点を整理していきましょう。
法律によって定められている
日本と海外では、コーポレートガバナンスに対する法的な位置づけが異なります。
例えばアメリカでは、企業の内部統制や情報開示の厳格なルールを定めた 「SOX法(サーベンス・オクスリー法)」があり、 ガバナンス違反には重い罰則が科されます。 また、イギリスでも「UKコーポレートガバナンス・コード」によって、 取締役会の構成や株主との関係について詳細な基準が設けられています。
一方、日本では「コーポレートガバナンス・コード」が策定されているものの、 法的拘束力はなく「原則準拠・説明責任型」が主流です。 企業にとって明確に従うべきルールではなく、 自主的な努力目標として扱われる傾向があります。
こうした制度の違いが、企業のガバナンス意識や取締役会の機能に直接影響を与えています。
ステークホルダーに対する考え方が異なる
日本と海外では、企業が重視するステークホルダーの範囲にも違いがあります。
海外では「株主価値の最大化」が基本的な考え方とされ、 経営者は株主の利益を最優先する姿勢が一般的です。 これは、経営と所有が明確に分離されている構造が背景にあります。
一方で、日本では「従業員」「取引先」「地域社会」といった多様なステークホルダーに配慮する経営が根付いており、 長期的な関係性や信頼の維持を重視する傾向があります。 こうした姿勢は、企業グループや取引慣行にも反映されており、 ガバナンス体制の設計にも大きな影響を与えています。
海外では短期的な成果を求められる場面も少なくないため、 日本企業がグローバルに展開する際は、 このような価値観の違いを理解したうえで、 柔軟かつ戦略的に対応することが重要です。
【日本と海外のコーポレートガバナンスの比較】
| 観点 | 日本 | 海外(主に米英) |
|---|---|---|
| 法的枠組み | コーポレートガバナンス・コードは「原則遵守+説明責任型」で法的拘束力は限定的。 | SOX法やUKコードなど、遵守が強く求められ、違反には厳しい制裁がある。 |
| 重視するステークホルダー | 株主に加え、従業員・取引先・地域社会など多様な関係者との長期的関係を重視。 | 株主価値の最大化が軸で、株主の利益保護が最優先される傾向が強い。 |
海外事業管理におけるコーポレートガバナンス
本社と現地の間で情報や方針の共有が不十分になると、 経営の統制が効かなくなるリスクが高まります。 こうした事態を防ぐためにも、 海外拠点におけるコーポレートガバナンスの強化 は欠かせません。
特に注目すべき観点は、以下の2点です。
- 海外事業におけるリスクの多様化
- グループガバナンスが求められる
この章では、これらの課題と対策について詳しく解説していきます。
海外事業におけるリスクの多様化
海外事業では、国内では想定しにくい多様なリスクが発生します。 代表的なものとして、次のようなリスクが挙げられます。
- 政治・地政学的リスク(政情不安・制裁・規制強化など)
- 為替変動リスク(為替レートの急激な変動による損失)
- 現地法令・規制の違反リスク
- 文化・商習慣のギャップによるトラブル
- 取引先・従業員のモラルやガバナンス水準の差による不祥事
さらに、本社と現地の間で情報共有が滞ると、 問題が発覚する頃にはすでに深刻化している恐れもあります。 こうした背景から、海外事業では「見えないリスク」の可視化が重要であり、 与信管理や内部監査の仕組みを含めたガバナンス体制の構築が必要です。
グループガバナンスが求められる
企業がグローバルに展開する際には、単一企業としてのガバナンスだけでなく、 子会社や関係会社を含めた 「グループ全体の統治=グループガバナンス」 が求められます。 子会社や海外拠点などを含むグループ企業体制をとっている場合は、 個別企業ごとの対応ではなく、全体を見渡したガバナンス体制の設計が重要です。
特に海外拠点では、本社からの管理が行き届かないことも多く、 現地任せの運営は不正やトラブルの温床になりがちです。 これを防ぐには、本社主導でグループ全体の方針を統一し、 業績評価や内部監査、与信管理のルールを共通化することが大切です。
とはいえ現実的には、「グループ全体で守るべき基本方針や最低限のルール」を定める一方で、 各国・各拠点の事情に合わせて「ローカルルール」を柔軟に設け、 定期的な情報共有やリスク報告の仕組みを整備する、ということになります。
また報告体制やITツールを活用した情報の一元管理により、 経営の透明性と迅速な意思決定が可能になります。 ガバナンスの視点からみたグループ経営は、海外事業の成功に直結する重要なテーマです。
コーポレートガバナンスの不備による海外事業のトラブル
コーポレートガバナンスが十分に機能していない海外拠点では、 経営上の重大なトラブルが発生するリスクが高まります。
以下では、特に起こりやすいトラブルを紹介します。
- 不正行為の発生
- 法令違反の発生
それぞれの具体例と企業への影響について詳しく解説します。
不正行為の発生
海外拠点では、本社の目が届きにくいことを背景に、 不正行為が発生しやすくなる傾向があります。 例えば、次のような例が挙げられます。
- 売上の水増しや架空売上の計上
- 架空経費・水増し請求などによる資金流出
- 現地責任者や従業員による私的流用
- 特定の取引先との癒着・利益供与
こうした行為は、企業の財務に直接的な損害を与えるだけでなく、 発覚した場合には信用の失墜や株価の急落、 さらには取引先や顧客からの契約解除、金融機関からの融資停止など、 企業存続に関わる深刻な影響を及ぼす可能性があります。
特に、内部通報制度が十分に整っていない企業では、 問題が長期にわたって見逃される可能性があります。 リスクの早期発見と未然防止のためには、 定期的な監査の実施や本社との密な報告体制、 ガバナンス意識の浸透が欠かせません。
法令違反の発生
海外展開では、現地の法律や規制に関する理解不足から 法令違反が生じるケースもあります。 例えば、次のようなリスクが想定されます。
- 税務申告の不備や申告漏れ
- 必要な許認可・ライセンスの未取得
- 労働法・安全衛生法規への違反
- 贈収賄やコンプライアンス違反の疑い
特にFCPA(米国海外腐敗行為防止法)など国際的な規制を軽視すると、 罰金や訴訟といった深刻な結果を招きかねません。 海外展開には、現地法だけでなく国際法にも対応する必要があります。
これらのリスクは、本社の管理体制が不十分な場合に起こりやすいため、 ガバナンス不備が企業全体の法的責任に発展する可能性もあります。 現地法への十分な理解と、コンプライアンス体制の整備が不可欠です。
まとめ
コーポレートガバナンスは、企業の透明性や健全性を確保し、 信頼を築くための基盤です。 特に海外拠点や取引先を持つ企業にとっては、 文化や制度の異なる現地で、本社と整合性のある経営や監督を実現することが 大きな課題となります。
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海外企業との取引を進める際も、客観的な信用情報に基づいてリスクを見える化でき、 コーポレートガバナンスの実効性を高める手段として活用いただけます。
海外展開が一般化する今こそ、すべての企業において統治体制の整備が重要です。 特に、子会社や関係会社などグループを形成している企業の場合は、 グループ全体での統治体制を構築し、 「海外リスクを見える化したうえで管理する」仕組みを整えることが重要です。

